2026年10月、米国のスタンドアップコメディアン、サミー・オベイド氏が、Xにて日本への入国を拒否されたと明かしました。

本人によると、日本で予定していたコメディライブが問題となり、約24時間にわたって待機施設に留め置かれた後、米国へ帰国することになったといいます。

このニュースを見て、「観光目的で日本に来て、少しだけライブをすることも認められないの?」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。

実は、日本の在留資格では、観光などを目的とする「短期滞在」と、演劇や演奏、コメディなどの公演を行うための「興行」では、認められる活動が大きく異なります。

今回はこの出来事をもとに、外国人が日本で公演を行う場合に必要となる在留資格や、海外の出演者を招く日本企業・イベント主催者が注意すべきポイントを解説します。

何が起きた?小規模なコメディライブが入国時に問題に

オベイド氏は東京で開催予定だったコメディライブに出演するため、ほかのコメディアン2人とともに来日しました。

…しかし、空港で日本での活動予定を確認された際、興行活動を行うための適切なビザを持っていないことを指摘されたといいます。

本人は、ライブの規模が小さく、会場費などを考えると赤字になることや、チケット代金は米国のアプリを通じて回収しており、日本国内の誰かから直接報酬を受け取るわけではないことを説明しましたが…

それでも入国は認められず、最終的に米国へ帰国することになったとのことです。

また、本人は過去にも日本で公演を行った経験があり、今回も問題なく入国できると考えていたようです。

※なお、これらは本人の投稿に基づく情報です。入管側の詳しい判断理由までは確認できないため、以下では一般的な制度に沿って考えていきます。

短期滞在では、報酬を得る活動は原則として認められない

一般に「観光ビザ」と呼ばれるのは、日本の在留資格では「短期滞在」というものに分類されます。観光だけでなく、親族・知人への訪問、商談、会議への参加など「短期滞在」にあたります。

そしてこの在留資格「短期滞在」で、収入を伴う事業を運営したり、報酬を得る活動を行ったりすることは、原則として認められていません。 例え滞在が数日だけでも、報酬を得る活動はしてはいけないのです。

海外で代金を受け取れば問題ない?

「日本で報酬を受け取るのがだめなら、海外で受け取れば大丈夫だよね?」

と思われる方もいるかもしれませんが、これは間違いです。

在留資格というのは「日本で行う活動が、許可された在留資格と符合していること」が必要だからです。

観光の為のビザ(短期滞在)であれば、観光をする
ミュージシャンがライブするための在留資格(興行)であればライブをする
大使の在留資格(外交)であれば外交活動をする
などなど…

在留資格で許可されている活動をする必要があります。

もしそうでなければ審査が簡単なビザを申請して、日本に入ったら好き放題やるということができてしまいます。これでは、問題がある人を事前に確認し、はじくことができませんよね。

また、公演が赤字だからといって、真に無報酬の活動と判断されるとは限りません。売上より経費が多かったとしても、チケットを販売して公演を行うという事業の性質まで変わるわけではないためです。

赤字というのは単に利益が出なかったという意味であり、お金を稼ぐための活動ではなかったという意味ではないですよね。

※なお、業として行わない講演(繰り返し行うようなものではない講演)への臨時の謝金など、法律上の例外はあります。

どうすればよかった?興行ビザの取得?イベント内容の見直し?

今回の場合においては予定どおり有料ライブを開催するのであれば、事前に「興行」の在留資格に対応した手続きを進めるのが基本です。

日本側の受入機関と協力して在留資格認定証明書(COE)を取得し、その後、海外の日本大使館・総領事館で査証を申請…と言う流れです。

一方、報酬を伴わない文化交流などとして企画するのであれば、短期滞在で認められる余地はあります。
ただし名称が「交流会」というだけで、開催内容や出演内容、契約関係、チケット収入などが明らかに興行の性質が強いという場合は、当然認められにくくなります。

なぜ、ビザ申請の段階で問題にならなかったのか?

「なぜ出発前の査証(ビザ)申請で、活動内容を指摘されなかったのだろうか」

と思う人もいるかもしれません。

通常であれば、査証を申請する段階で自分の活動内容を説明した段階で、不許可になってしまうはずです。

しかしちょっと考えれば今回の件はそれに当てはまらないことがわかります。
米国籍の人は、観光や短期商用などの条件を満たす90日以内の滞在であれば、原則として事前の査証取得が免除されているため。出国前の査証申請と言うのがそもそもないのです。つまり、アメリカ人が日本へ観光に来る場合、事前に日本大使館などで査証を申請する必要はないのです。

ただし、査証免除は、どのような活動でも自由に行えることを意味するものではありません。

そのため、審査と言うものが行われないまま日本まで来れてしまい、結果日本に来てから在留資格「短期滞在(観光)」では報酬を受けてのスタンドアップコメディの活動はできないということを突き付けられてしまったのです。

興行ビザ(在留資格「興行」)は、出演者だけでなく日本側の受入体制も審査される

ただ興行ビザも、そう簡単なものではありません。

興行の審査では、出演者の経歴や活動内容に加え、日本側で誰が受け入れ、どこで公演し、どのような契約で報酬を支払うのかも確認されます。

例えば、申請の区分に応じて、受入機関の登記事項証明書や決算書、出演契約書、会場の資料などを提出します。受入機関の経営者・管理者の興行業務に関する経験や、過去の報酬の支払状況が確認されたりもします。

つまり、出演者が有名かどうかだけではなく、日本側に適切な契約と受入体制が整っていることも重要なのです。

2023年8月にも基準が見直されており、公演の内容や会場、契約形態などによって適用される区分が異なります。「小規模な会場だから取得できない」と決めつけず、企画に合った申請方法を確認することが大切です。

厳しい審査の背景には、パブやクラブなどで悪用された歴史がある

在留資格「興行」が厳しく審査される背景の一つに、興行ビザが本来の目的とは異なる形で利用されてきた歴史があります。

かつて、歌手やダンサーとして来日した外国人の方が、実際にはナイトクラブなどでホステスの仕事を強いられる(もしくは自身で不法就労する)ケースがありました。
そこでは、長時間労働や報酬の不払い・低払い、外出の制限など、人身取引や搾取につながる深刻な問題もあったことが指摘されています。

こうした問題を受け、2005年3月には出演者の資格・経験に関する基準が見直され、2006年6月には契約機関や出演施設についても、人身取引への関与者の排除や報酬の支払いを確保するための要件が整えられました。

興行ビザの審査には、不法就労を防ぐだけでなく、外国人の方の出演者を悪質な受入先から守る役割もあるのです。

まとめ|外国人の方を招く主催者も、企画段階で確認を

出演者が空港で入国を認められなければ、公演の中止やチケットの払い戻し、会場のキャンセル費用など、主催者にも影響が及びます。「本人が大丈夫と言っているから」と任せきりにせず、日本側でも活動内容と在留資格を協力して取得する方針で動く必要があります。

開催直前になってからでは、必要な準備が間に合わないおそれもありますので、出演内容、報酬、契約関係が決まったなるべく早い段階で手続きを確認することが、重要ですね。

とりかに国際行政書士法人では、外国人の方の招聘や在留資格に関するご相談を承っております。海外の出演者を招く予定のある企業・イベント主催者の方は、企画段階からお気軽にご相談ください。

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